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●パリの街角から

「この街」

パリの5区、長女が通う幼稚園の近くに、小さな本屋さんがあります。2つの通りの角に立つその本屋さんには、2つの通りに面して大きなショーウィンドウがあり、たくさんの本が並べられています。僕は毎朝、長女を幼稚園まで送った後に、そのショーウィンドウを覘くことを楽しみにしています。この本屋さんは、パリに関する本に力を入れていらっしゃるのか、様々な本が並んでいます。パリに関する小説やエッセイ、絵本に画集、写真集など、僕が思っている以上にたくさんの本があるようです。またその中には、色鮮やかな表紙や美しい挿し絵を見ただけで、衝動買いしたくなるような本もあります。

一方、我が家にも、パリに関する本があります。子ども達の本棚にある絵本や、図書館から借りてきた本、僕の本棚にあるパリの古地図に関する本など。そのどれもが美しい色使いであり、また、パリの街が優しく描かれていて、何度も手に取っては眺めています。

そして、本屋さんのショーウィンドウを覘いている時も、また、自宅で本を眺めている時も、いま、自分が住んでいるこの街の、身近な場所について書かれているのを読んだり(フランス語はほとんど読めませんが…)、身近な風景が描かれているのを見たりすると、何故だか、とても嬉しくなります。

さらに、これらの本を読んだり見たりした後に街へ出ると、より一層、この街が素敵に見えてきます。

外国人が生きていく上では、不便なことも、不条理なことも、思い通りにならないこともたくさんあるこの街ですが、そのすべてを含めても、プラスマイナスでプラスになるように、いまの僕は感じています。

アメリカの小説家アーネスト ヘミングウェイは、若き日の数年間をこの街で過ごし、後年、友人にこんな言葉を残しています。「君が幸運にも青年時代にパリに住んだとしたら、パリは一生君についてまわる。何故ならパリは移動祝祭日だからだ。」…と。

あいにく僕は、すでに青年とは言い難い年齢ですが、何となく、そしてほんの少しだけ、ヘミングウェイの言葉が解るような気がします。そしてまた、先に掲げたパリに関する本の作者たちも、その思い入れの強い弱いはあるにせよ、きっと皆、同じような気持ちなのではないかと、僕は思います。

今回は、フランス、パリに対する、いまの僕の気持ちを、少しだけお話いたしました。

阿部桂太郎

1965年8月22日生まれ。新潟県小千谷市出身。2003年よりフランス、パリ在住。インターネットショップ「フルール ド クール」を営む。好きなことは、旅をすること、食べること、温泉に入ること。