333DISCS PRESS

●乙女歌謡

こんにちは。甲斐みのりです。
333pressの乙女歌謡コーナーでは、日本語の歌に限らず、10代の頃に聴いていた愛らしい音楽をご紹介しておりますが、今回は番外編。子どもの頃の記憶の音楽をご紹介いたします。

 

3月11日の震災からしばらく、テレビのニュースから目を離すことができず、流れる映像や情報にショックをうけ、気持ちが沈む日々が続きました。現状を知ることも必要だけれど、このままではいけないとテレビを消し、夜は読書して過ごしたり、静かな音楽を聴くようになりました。

子どもの頃、プロテスタントの母親に連れられ、教会学校に通った時期があります。そのとき覚えた賛美歌。歌詞の意味は分からずとも、子守唄のように聴いてきたこともありなにより私が、穏やかな心持ちになれる音楽。

 

CDショップのクラシックコーナーで、500円で売られていた「アヴェ・マリア名曲集~10人の作曲家による」(エイベックス)ここしばらくで、もっとも多く部屋で流れています。シューベルト、バッハ、カッチーニ、ブラームス、ブルックナー、ジョスカン・デ・プレ、エルガー、ドニゼッティ、ヴェルディ、リスト。有名な作曲家たちが、音で描いたマリアさま。心もとないときに寄り添ってもらうのです。

 

子どもの頃はよく、「ノアの箱船ごっこ」をひとり遊びしていました。小さなベッドをノアの箱船に見立て、ぬいぐるみや絵本、そしておやつも。大切なもの全てベッドの中につめこみ、何時間もそこで過ごす。外は大雨だからと、想像しながら。あのとき遊びで済んだことが今、目の前に現実として起きている。

 

信じられる音楽を聴くことと、神さまに祈ることは似ていると思ってきたけれど、祈りたいことだらけの今、音楽に救われることばかりです。

 

甲斐みのり
文筆家。静岡生まれ。旅・お菓子・クラシック建築など、女性の憧れを主な題材に執筆。ただいま、同郷の葉田いづみさんと静岡の本を制作中。

●国立の街角から

 

「ベーカリー清水」


それは、馴染みの編集者と自宅で打合せしたときのこと。「ベーカリー清水って知ってます?帰りに寄ろうと思って。」と言われ、初耳だったので場所をたずねてみると谷保駅の商店街だという。近所にパン屋はいくつかあるが、胸を張ってお勧めできる店はあまりなかった。

 

どうにも気になって仕方ないので、早速夕方出かけてみる。店構えは地味で、昔ながらの街のパン屋という感じ。誰かに勧められなければ入らなかったかもしれない。残り少ない商品の中から食パンとチョココロネを買い求めた。

 

それからというもの、ベーカリー清水はとっておきのパン屋になった。秘かな人気店ゆえいつも品薄だけれど、どんなパンに出合えるのかわからないという楽しみがある。教えてくれたMさんに感謝。

 

葉田いづみ
グラフィック・デザイナー。主に書籍のデザインを手がける。静岡県出身。2009年より国立に暮らす。

●パリの街角から

 

 

 

「今日の献立は、サラダにシェーブルのチーズに…。」

「パリの幼稚園」

こんにちは、フルール ド クールの阿部桂太郎でございます。皆様、いかがお過ごしでしょうか。さて今回は、娘の通う幼稚園の様子についてお話したいと思います。

 

我が家の娘は3歳。昨年の秋から幼稚園に通い始めました。なお本当は公立の幼稚園に入れたかったのですが、私達家族の住むパリの5区ではどこの幼稚園も満員で、やむなく私立の幼稚園に入れることにしました。

 

 

始業は朝9時。そのため、朝8時半から9時までの間に登園することになっています。また、その30分間しか入り口の門は開かず(暗証番号を入力して開門)、それ以前も、それ以後も、基本的に門は閉ざされてしまいます(夕方の終業時間まで)。さらに、9時の始業であっても、時間ぎりぎりに登園しないようにと先生から言われています。理由は、時間にゆとりをもち、落ち着いた気持ちで、始業の時間を迎えて欲しいからとのこと。

 

なお、毎朝僕が娘を幼稚園まで送って行きますが、登園してくる子ども達を見るのはなかなか楽しいもの。小さな自転車に乗ってくる子やトロティネット(trottinette:キックボード)を蹴りながらくる子、お父さんの運転する大型オートバイに跨ってくる子に、ベビーカーに揺られてくる子など、実に様々です。また、我が家だけでなく、お父さんに送られてくる子どもが多いのにも驚きです。

 

お昼ご飯は幼稚園で準備され、皆んなで一緒に食べているようです。幼稚園の玄関を入ったところに小さな黒板があり、そこに月曜日から金曜日までの献立が記されています。また、お昼ご飯を食べる前にも心を落ち着かせ、皆で手をつないで「いただきます」の歌を歌うようです。そのため現在は、自宅で朝ご飯や夕ご飯を食べる前にも、家族三人で手をつないで「いただきます」の歌を歌っています。

 

夕方は、終業時間に退園することも、また、午後6時までの延長保育をお願いすることもできます。我が家の娘は毎日延長保育をお願いしているので、午後6時までに迎えに行くようにしています。なお、先日、娘を迎えに行った時のこと。僕の姿を見た途端に泣かれてしまったことがありました…。「何か嫌なことでもあったのかな?」と本人に尋ねてみたところ、「これから皆んなと一緒にダンスを踊るところだったの~。踊ってから帰りたい~(泣)」との返事。思わず、笑ってしまいました。

 

また、幼稚園にいる間はフランス語を話すため、語彙も発音も理解力も、僕よりずっと上手くなっている彼女。現在では、「ねっ、○○したい時はフランス語で何て言うの?」と、僕の方が教えてもらっています。さらに、最近トイレも一人で用を足すことができるようになった彼女。「ねっ、おしっこに行く時は何ていうの?」と聞いたら、「ジュ フェ ピピ(Je fais pipi:おしっこをする)」。「じゃ、おもらししちゃった時は?」と聞いたら、「セ パ グラーヴ!(C’est pas grave!:気にしな~い!)」だって。

 

阿部桂太郎

1965年8月22日生まれ。新潟県小千谷市出身。2003年よりフランス、パリ在住。インターネットショップ「フルール ド クール」を営む。好きなことは、旅をすること、食べること、温泉に入ること。

●西荻の街角から〜トウキョウエコノミー

「拝啓 C・F・W・ニコルさまへ」

文責:三品輝起

本コーナーでは、わざわざ普段の仕事で書いてるようなカッチカチな話もアレだし、といって震災と関係ないユルユルなことを書く気にもなれない。また震災情報という点からいえば、おそらくインターネットで情報収集にいそしむ方々や、お茶の間ワイドショーにがっぷり四つの方々(ぼくの親とか)のほうがよっぽど詳しい。

 

てなわけで、震災の復興に向けた経済学者らによる議論の中で(注1)、比較的わかりやすくて、かつ、まだあまり知られていない、「キャッシュ・フォー・ワーク(Cash for Work=以下CFW)」という提案をさくっと紹介してみたい(注2)

 

まずCFWは「労働対価による支援」と訳されたりする。つまり「被災者みずから」に復興事業に従事してもらい、賃金を支払うことで一時的な雇用にもなる、という考えだ。途上国の復興援助ではかなり一般化してるので、平時からそっち系に興味があった人は知ってるかも。

以下、具体的なCFW案を、震災初期から提唱をしてきた永松伸吾さん(関西大学社会安全学部・准教授)の議論を参考に、簡単に説明していく。

 

目的は2つあって、「被災者に一時的な雇用機会を確保し、最低限の収入を維持しながら、地域経済の自立的な復興を支援すること」。あと「被災者自身が自らの地域の復興に直接関わることによって、被災者に尊厳と将来への希望を取り戻し、地域の絆を高めること」(注3)

 

んじゃ、どんな仕事をやるの? 具体的には、自宅周辺のがれきの片付け、建造物の復旧、遺留品の回収と返品。被災者台帳の作成、コールセンター、仮設住宅の見回り、給食配送なんかがある。変わったものだと、震災の学術調査の補佐や、支援系のNGOに対する食事や宿泊の提供、といったものまで考案されてる。ただ1点だけ、重要な但し書きがあって、それは「雇用のために無理矢理創出された仕事であってはならない」ってこと。

 

じゃあ、いくらくれるの? CFWの賃金にも重要なポイントが1つある。賃金が「既存の産業と労働市場において競合することがあってはならない」というものだ。CFWが、市場の復興経済に悪影響を与えることだけは避けなくちゃならない。よって永松さんは賃金水準を、同一労働の3割ぐらい低めに設定するのが好ましい、としている。そうすることで、勤め先がどうしても見つからない人にだけ雇用を提供できる。

 

とりあえず、ほんのさわりの部分だけ書いてみた、んで読み返してみたが、うーんこれ興味ないかもなー。合コンなんかで語ってたらヤバいもんなー、というか誘われたことないけど。まあいい、そろそろ終わります。

 

CFWを机上から現実に移していくには、法的整備を含め国レベルでの政策でなくちゃならない。その下にCFWセンターのようなものを作って、労働受給を効率的にマッチングするのも、容易なことじゃない。むろん、これはたくさんある復興案の、小さなアイディアの1つに過ぎないわけだけど、ぼくはひろーい可能性を感じてて、勉強会やら提言のフォローにいそしんでる。余震に揺れる東京23区の端っこで。

 

さーて……所変わって、深夜のお店。パソコンの光に照らされ、ひとり物思いに耽っている。「人間だもの CWニコル」と検索バーに入れたりしながら、一介のお店にできることはあまりに小さいなーってしみじみ思う。けどまあ、自分の頭で考えて、黙って行動していくつもりよ。んでは。ナっ、シュレダノウー!

 

注1:ご存知のように、復興予算の財源をどう確保するかで、もめにもめている。ひとえに、震災が財政赤字と深刻なデフレ不況下で起こったからだけど、増税でいくのか、予算組み替えでいくのか、国債でいくのか、いくとすれば債券を市場で売るのか日銀が引き受けるのか。
4月22日時点では1次補正4兆円が決まり、幹事長が会見で「復興再生債(仮称)」を発行し、2次補正予算案の財源確保のため期間限定で増税する、って言ってる。とまあ、紛糾してるわけだが、CFWは財源の議論とは無関係に、必要な政策だろう。

注2:すでにCFWはいくつかの場所(岩手県大船渡市など)で「臨時雇用制度」として実践されている。またCFW総合サイトとしてはこちらが便利 → http://real-japan.org/category/cfw/

注3:ちょっとメンドクサーイことを書くと、CFWの根底の認識には、阪神・淡路大震災のときの教訓が生かされている。従来の経済学的な議論だと「供給サイド」にばかり注目がいきがちだけど、阪神・淡路の場合、被災地の復興需要が、ほぼ外部からの供給によって充填され(非常時はしかたない)、長いスパンで現地の経済に空洞化をもたらしていった、という研究がある。
ちなみにサプライサイドな経済学からいえば、GDPに占める被害の割合は、10パーセントぐらいの水準で、これは阪神・淡路と同程度だとされる。たしかに、日本のような開放系の経済であれば、他地域と海外からの供給で代替できるんだ、という見方もある。がしかし、「需要サイド」に注目しないと、長期的な地域格差の拡大、それによるコミュニティ(=社会関係資本)の破壊といった、目に見えにくい問題を取りこぼすことになる。5段落目の引用文にある「自立的」やら「尊厳」やら「絆」やらというのは、そういう意味も含んでいる。

 

品輝起(みしなてるおき)

79年生まれ、愛媛県出身。05年より西荻窪にて器と雑貨の店「FALL (フォール)」を経営。また経済誌、その他でライター業もしている。音楽活動では『PENGUIN CAFE ORCHESTRA -tribute-』(commmons × 333DISCS) などに参加。